始めて3日目の夜。
今日も手をつけないまま、気づけばスマホを開いている。
やる気はあったはずなのに、体が動かない。
また続かなかったって、自分にがっかりする。
ここでは、本番で力を出すアスリートの体の使い方と、脳科学から見つめていきます。
三日坊主を抜け出す人の最大の特徴。
それは、気合いを入れ直さないことです。
続かないのは、意志が弱いからではありません。
こんな状態に、心当たりはありませんか?
・始める前から、肩や奥歯に力が入っている。
・やろうとした瞬間、なぜかスマホやお菓子に手が伸びる。
・「今日こそ全部やる」って決めた翌日ほど、何もできない。
・できなかった夜に反省するほど、次の日が重くなる。
2つ以上当てはまるなら、足りないのは根性ではないかもしれません。
疲れやストレスで体のアクセルが踏みっぱなしになり、いつも通りの行動に流れやすくなっている可能性があります。
今日は、その理由と、30秒でできる自己チェック、3分の切り替え手順をまとめます。
三日坊主の裏で、体のアクセルが踏みっぱなしになっている
自律神経には、大きく分けて2つの働きがあります。
・体を戦う準備に向ける交感神経。
・体を休ませ、回復に向ける副交感神経。
よく、車のアクセルとブレーキにたとえられます。
仕事で気を張る。
寝不足が続く。
人間関係で気をつかう。
こうした日が重なると、アクセル側が入りっぱなしになりやすくなります。
ここで大事なのは、アクセルが入っているときの脳は、新しいことを選ぶより、いつものことを繰り返すほうに傾きやすいという点です。
ストレスで、行動が「いつも通り」に寄る
ドイツのルール大学ボーフムの研究チームが、2011年に発表した実験があります。
参加者は、ストレスのかかる課題か、負担の少ない課題のどちらかを受けました。
そのあと、パソコン上のアイコンをクリックすると、ココアかオレンジジュースがもらえる練習をします。
練習のあと、片方の飲み物をお腹いっぱいになるまで飲んでもらいました。
普通なら、もう飲みたくないほうのアイコンはクリックしなくなります。
目的に合わせて、行動を切り替えるからです。
ところが、ストレスを受けたグループは、もういらない飲み物のアイコンも、それまでと同じようにクリックし続ける傾向が見られました。
目的より、覚えた手順のほうが勝ってしまった状態です。
さらにこの実験では、ノルアドレナリンの働きを抑える薬を事前に飲んだグループでは、この切り替わりが起きにくくなっていました。
ノルアドレナリンは、交感神経、つまり体のアクセルの働きに深く関わる物質です。
つまり、ストレスで目的より手順が勝ってしまう変化には、体のアクセル側の働きが関わっている可能性があるということです。
ただ、この分野は研究によって結果が分かれていて、2023年には同じ結果が再現されなかったという追試の報告も出ています。
だからここでは、「ストレスがかかると、いつも通りの行動に流れやすくなることがある」くらいの受け取り方にとどめてください。
それでも、三日坊主を考えるヒントにはなります。
新しい習慣は、まだ「いつも通り」になっていません。
アクセルが入った日ほど、体はすでに慣れた行動のほうへ戻ろうとします。
スマホを開く。
お菓子をつまむ。
ソファで横になる。
それは、あなたが怠けているからではなく、疲れた体が一番慣れた道を選んでいるだけかもしれません。
私も、原因を努力量だと思い込んでいた
現役時代、頑張っているのに結果が出ない時期を何度も経験しました。
そのたびに私は、足りないのは努力量だと思って、さらに自分を追い込んでいました。
今振り返ると、体がアクセルを踏みっぱなしの状態に、さらにアクセルを足していたようなものです。
意志の問題に見えることの中に、体の状態の問題が混ざっている。
これに気づくまで、ずいぶん遠回りをしました。
アクセルが入りっぱなしになりやすい日
三日坊主が起きやすいのは、特別な日ではありません。
むしろ、よくある日です。
前の晩に寝るのが遅かった日。
朝から予定が詰まっていて、休む間がなかった日。
誰かに言われた一言が、頭の中でずっと回っている日。
新しいことを始めた初日に張り切りすぎて、2日目に疲れが出た日。
こういう日は、夜になっても体の緊張が抜けにくくなります。
そこへ「今日も習慣をやらなきゃ」が重なると、体にとっては、また1つ気を張る予定が増えるのと同じです。
だから、始めた習慣が3日目あたりで止まるのは、珍しいことではありません。
最初の勢いが切れて、ふだんの疲れが表に出てくるタイミングだからです。
先にやらなくていい3つのこと
三日坊主になったとき、多くの人が最初にやろうとすることがあります。
でも、アクセルが入りっぱなしの状態なら、次の3つは先にやらなくて大丈夫です。
1.気合いを入れ直す
「明日こそ本気でやる」
「甘えている自分を変える」
気合いを入れ直すのは、アクセルをもう一段踏み込むことに近い行為です。
体がすでに張りつめているなら、踏み込むほど、慣れた行動へ逃げる力も強くなりやすくなります。
必要なのは、アクセルを足すことではなく、一度ブレーキを踏める状態に戻すことです。
代わりにやること:決意を言い直す前に、息を1回長く吐く。
2.目標を増やす
続かなかった反動で、「朝活も、運動も、読書も」って一気に足したくなることがあります。
私も、新しい習慣を始めるときは、今でも「これも」「あれも」って足したくなります。
プロ時代から、限界まで追い込むのが染みついているからです。
でも、実際にちゃんと残った習慣は、いつも1個だけ足して、しばらく変えなかったものでした。
欲張って全部を一気に変えようとした習慣は、だいたい2週間も持たずに消えていきました。
やることが増えるほど、1日の中で判断する回数も増えます。
疲れた日に判断が多いと、体はまた慣れた行動へ戻りやすくなります。
代わりにやること:続けたい習慣を1つだけ残して、残りは「余裕が出たら」のメモに移す。
3.自分を責める記録をつける
できなかった日に、反省を長く書く。
「なぜ自分はダメなのか」を細かく書き出す。
これも、疲れた体にもう1つ負荷を足すことになりがちです。
プロ時代、結果が出なかった日に自分を責め続けていた時期は、次の日のパフォーマンスもむしろ落ちていました。
責める代わりに、今起きていることをただ実況するようにしてから、引きずる時間が短くなりました。
記録をやめる必要はありません。
書く内容を、反省から観察に変えるだけで大丈夫です。
代わりにやること:「何時に、何が起きて、どこで止まったか」を1行だけ書く。
疲れた日は、新しい決意より「いつもの自分」が出る
アメリカの南カリフォルニア大学のウェンディ・ウッド教授らの研究チームが、2013年に発表した研究があります。
大学生の毎日の行動を、試験が重なった週と、試験のない週で比べました。
すると、試験が重なって余裕のない週ほど、もともと身についていた習慣がそのまま出やすくなっていました。
朝ごはんを食べる、ニュースを読むといった良い習慣も。
甘い菓子パンを食べる、コーヒーに砂糖を入れるといった習慣も、です。
余裕がない日は、その場の決意より、すでにある習慣のほうが行動を決めやすい。
だから三日坊主を抜けるには、気合いより先に、体の状態を戻して、小さな行動を「いつもの自分」の側へ少しずつ移していくほうが近道になります。
30秒の自己チェックと、3分の切り替え手順
まずは、今の自分のアクセルがどれくらい入っているかを見てみます。
30秒の自己チェック
タイマーを30秒にセットして、座ったまま普段どおりに呼吸します。
呼吸を変えようとせず、次の4つを確かめてください。
1.吐く息が、吸う息より短くなっている
2.肩が上がっているか、奥歯をかみしめている
3.この30秒のあいだに、スマホを触りたくなった
4.頭の中で「今日こそ全部」「早く終わらせないと」って考えていた
2つ以上当てはまったら、体がアクセル寄りになっているサインかもしれません。
これは病気かどうかを判断するものではなく、今の状態に気づくための目安です。
私が使っていた「1回だけ吐く」ルール
現役時代、緊張から逃げるように、手が勝手に動いていた時期がありました。
試合前、スマホを触ったり、余計な間食に手を伸ばしたり。
コーチに指摘されるまで、自分がどれだけ無意識に手を動かしているか、気づいていませんでした。
そこで決めたのが、手が伸びそうになった瞬間に、1回だけ深く息を吐いてから動くというルールです。
この「1回だけ」を、誰でも今日から使える形に広げたのが、次の3分の手順です。
吐く息を長くする呼吸の研究
2023年、アメリカのスタンフォード大学の研究チームが、呼吸法の実験結果を発表しました。
111人の参加者が、1日5分、1か月間、決められた呼吸法かマインドフルネス瞑想を続けました。
その中で、鼻から吸ったあと、もう一度短く吸い足して、口から長く吐く呼吸(サイクリック・サイという方法)を続けたグループは、瞑想のグループよりも気分の改善が大きく、呼吸の回数もより減っていました。
ポイントは、吸うことより、長く吐くことに重心がある点です。
この記事の手順は3分に縮めているので、研究と同じ時間ではありません。
それでも、長く吐くことを入口にする考え方は同じです。
3分の切り替え手順
【STEP1|30秒・止まる】
スマホやお菓子に手が伸びた瞬間を合図にします。
手を太ももか机の上に置きます。
心の中で「今、アクセルが入ってる」って1回だけ実況します。
責める言葉ではなく、見たままを言葉にするだけです。
【STEP2|1分30秒・長く吐く】
鼻から吸って、もう一度短く吸い足します。
口から6秒くらいかけて、ゆっくり吐き切ります。
これを5回。
だいたい1分です。
残りの30秒は普通の呼吸に戻して、吐くたびに肩を少しずつ下ろします。
【STEP3|1分・最小の1回をやる】
呼吸が終わったら、予定していた習慣の最小の1回だけをやります。
本を1ページ開く。
腕立てを1回だけする。
日誌に1行だけ書く。
全部やろうとしなくて大丈夫です。
ここでのゴールは、今日の自分と習慣の接点を切らさないことです。
切り替わったときのサイン
3分のあと、次のような変化があれば、ブレーキが少し戻ってきたサインです。
肩が少し下がっている。
吐く息が長くなっている。
スマホに伸びる手が、少し遠く感じる。
「全部やらなきゃ」が「1つでいい」に変わっている。
毎回はっきり変わるとは限りません。
変化が小さくても、手順を1回通せたなら、それで今日はOKです。
使う場面の例
朝、起きてすぐスマホに手が伸びたとき
STEP1で手を布団の上に置き、STEP2で5回吐きます。
STEP3は、カーテンを開ける、コップ1杯の水を飲むなど、朝の習慣の最小の1回にします。
帰宅して、ソファに座り込んだとき
座ったままでOKです。
STEP2のあと、運動着を手に取るだけ、本を1ページ開くだけにします。
始めようとした瞬間に、お菓子や動画に手が伸びたとき
ここが一番使いどころです。
伸びた手そのものを合図にして、STEP1から始めます。
手が伸びるたびに「またやってしまった」って思う必要はありません。
伸びた手は、切り替えを始める合図として使えます。
やってはいけないときと、やりがちなこと
体を使う方法なので、先に線引きをしておきます。
この手順をやめるとき
呼吸の途中で、めまい、手足のしびれ、息苦しさが出たら、すぐにやめて普通の呼吸に戻してください。
息を止めたり、苦しいほど長く吐いたりする必要はありません。
ぜんそくなど呼吸器の病気や、心臓の病気で治療中の人は、始める前に主治医に確認してください。
受診を先にしてほしいとき
動悸や胸の痛み、息切れが続くときは、呼吸法より先に医療機関に相談してください。
また、厚生労働省のメンタルヘルスのサイトでは、気分の落ち込みや興味がわかない状態、眠れないなどのサインのうち、5つ以上が2週間以上続いていたら、専門家に相談することを勧めています。
ほぼ毎日眠れない。
何をしても楽しくない。
朝起きるのがつらい日が何週間も続いている。
こうした状態なら、三日坊主を直すより先に、体と心を診てもらうことを優先してください。
この記事は、習慣を続けやすくするための工夫を紹介するもので、病気を治す方法ではありません。
やりがちなこと
良かれと思ってやりがちなことも、4つ挙げておきます。
1.深呼吸で、たくさん吸おうとする
アクセルが入っているときに大きく吸い込むと、かえって肩に力が入りがちです。
主役は吸うことではなく、長く吐くことです。
2.3分きっちりやらないと意味がないと思う
私のルールも、最初は1回吐くだけでした。
時間がない日は、STEP2の1回だけでOKです。
3.呼吸のあと、すぐ全部のメニューに戻る
体が落ち着いた瞬間に、また全部をやろうとするとアクセルが戻ります。
最初は最小の1回だけにして、続きはそのあとで決めます。
4.できなかった日に、呼吸を反省の儀式にする
「サボった分、長くやる」は、また自分を責める方向に戻ります。
呼吸は罰ではなく、戻るための入口です。
3日目を越えるための順番
ここまでを、順番にまとめます。
1.続かないとき、まず意志ではなく体の状態を疑う
2.気合いを入れ直す、目標を増やす、自分を責める記録をつけるのは後回し
3.30秒のチェックで、アクセルの入り具合に気づく
4.手が伸びた瞬間を合図に、3分の切り替え手順をやる
5.最後は最小の1回で、習慣との接点を残す
三日坊主の3日目は、ちょうど最初の勢いが切れて、疲れが出てくるころです。
そこで気合いを足すのではなく、一度ブレーキを踏んでから、小さく戻る。
この順番を知っているだけで、4日目の景色は変わりやすくなります。
最初の3日間の組み立て
いきなり全部をやらず、3日に分けて試してみてください。
1日目:気づくだけ
30秒の自己チェックを1回だけやります。
手が伸びやすい時間帯と、伸びた先のものをメモします。
2日目:手順を1回通す
手が伸びた瞬間を合図に、3分の切り替え手順を1回だけやります。
最小の1回までできたら、その日は終わりで大丈夫です。
3日目:崩れたときの戻り方を決める
できなかった日があったら、翌日はSTEP2の1回だけやる、と先に決めておきます。
3日目に大事なのは、完璧に続けることではなく、戻る入口を持っておくことです。
私も現役時代、「今日はもう無理」って感じた日ほど、メニューを丸ごと休むか、意地でも全部やり切るかの二択で考えていました。
その二択そのものが、一番調子を崩す原因でした。
防いでくれたのは、最低ラインを極端に下げておくことです。
腕立て1回、日誌に1行。
それだけで、今日はゼロにしなかったことにしていました。
自分用のメモとして、次をコピーして使ってください。
アクセルが入りやすい時間帯:
そのとき手が伸びやすいもの:
切り替えの合図にする瞬間:
長く吐く回数:
最小の1回:
3日目に崩れたときの再開行動:続かなかった過去は、あなたの意志の弱さの証拠ではありません。
疲れた体が、慣れた道に戻っていただけです。
だから、戻る道のほうを少しずつ作り直していけば大丈夫です。
あなたが緊張や疲れを感じたとき、無意識に手が伸びるものは何ですか?
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